「高山病」と、その予防薬として知られる「ダイアモックス」について
今回は、趣味で登山をされる方や、これから高地へ旅行・出張される方へ向けて、「高山病」と、その予防薬として知られる「ダイアモックス」についてお話しします。
「精神科で高山病?」と思われるかもしれませんが、実はダイアモックス(アセタゾラミド)は、脳圧を下げる目的や、ある種の睡眠時無呼吸の改善など、精神・神経科領域でも縁のあるお薬なのです。また、当院では自由診療にて、高山病予防薬としての処方を行っております。
1. 高山病とは何か?
高山病は、標高が上がることで気圧が下がり、体内に取り込める酸素が不足することで起こる一連の症状のことです。
主な症状: 頭痛、吐き気、倦怠感、めまい、睡眠障害。
発生の目安: 一般的に標高2,500mを超えるとリスクが高まりますが、個人差が非常に大きいです。
2. ダイアモックス(アセタゾラミド)の薬理
なぜこの薬が高山病に効くのでしょうか? 少し専門的なメカニズムを解説します。
ダイアモックスは「炭酸脱水素酵素阻害薬」という種類のお薬です。
血液を少しだけ「酸性」に傾ける:
この薬を飲むと、腎臓から重炭酸イオンが排出され、血液がわずかに酸性に変化します(代謝性アシドーシス)。
呼吸中枢を刺激する:
脳が「血液が酸性だ=二酸化炭素が多い!」と勘違いし、呼吸を増やすよう指令を出します。
酸素の取り込みが増える:
呼吸が深く、速くなることで、低酸素状態の山の上でも血中の酸素濃度が維持されやすくなります。
つまり、自力での**「順応(高度順化)」を薬の力で先取りしてサポートする**イメージですね。
3. 正しい使い方とタイミング
高山病の治療ではなく、「予防」として使うのが一般的です。
項目一般的な使用方法開始時期山に登る(高地に到着する)前日、または当日朝から服用を開始します。服用回数通常、1日2回(朝・夕)に分けて半錠(125mg)を服用します。合計4日間服用します。
注意点: > ダイアモックスを飲んでいるからといって、無茶なスピードで登っていいわけではありません。あくまで「補助」と考え、水分補給とゆっくりした登坂、高地での安静を心がけてください。
4. どのような国・都市へ行く時に必要か?
「登山」だけでなく、「高所にある都市」へ飛行機などで一気に移動する場合にも、ダイアモックスの予防服用が推奨されます。
具体的には、標高2,500m以上の地域へ行く場合が目安です。
代表的な国と都市(標高2,500m以上)
具体的に「この国・この観光地なら持っておくと安心」という代表例をリストアップしました。
1. 南米(アンデス山脈周辺)
南米は空港がいきなり標高25,00m超えという場所が多く、最もダイアモックスが必要になりやすいエリアです。
コロンビア: 首都ボゴタ(標高約2,640m)
ボリビア: ラパス(約3,600m)、ウユニ塩湖(約3,700m)
ペルー: クスコ(約3,400m)
エクアドル: キト(約2,850m)
2. アジア(チベット・ヒマラヤ周辺)
登山だけでなく、観光地自体が非常に高い場所にあります。
中国: ラサ(約3,650m)、九寨溝・黄龍(約3,100〜3,500m)、シャングリラ(約3,200m)
ネパール: カトマンズ(約1,400m)は大丈夫ですが、そこからエベレスト街道へのトレッキングや、小型機でルクラ(約2,800m)へ飛ぶ場合は要注意です。
3. アフリカ
タンザニア: キリマンジャロ登山(最高峰は5,895m)。ツアーなどではほぼ必須に近い扱いです。
4. ヨーロッパ・北米(主にスキーや登山)
スイス: ユングフラウヨッホ(展望台が約3,500m)。ケーブルカーで一気に上がるため、短時間の滞在でも頭痛がすることがあります。
アメリカ: ロッキー山脈周辺のスキーリゾート(コロラド州など)は、滞在先のホテル自体が2,500mを超えていることがあります。
5. 日本
富士山: 五合目(約2,300m)から山頂(3,776m)を目指す登山の際に処方されることが多いです。
5. 気をつけたい副作用
比較的安全な薬ですが、以下のような独特の反応が出ることがあります。
手足のしびれ感: 指先がピリピリすることがありますが、これは薬が効いているサインでもあります。
頻尿: 利尿作用があるため、トイレが近くなります。脱水にならないよう、山の上では意識的な水分補給が必要です。
味覚の変化: 炭酸飲料が「金属のような味」に感じ、まずく感じることがあります。
最後に
高山病は、重症化すると「高地脳浮腫」や「高地肺水腫」といった命に関わる事態を招きます。
もし高地で強い頭痛やふらつきを感じ、改善しない場合は、標高を下げることが最大の治療です。無理のない行程で、安全に景色を楽しんでくださいね。
もし高地への旅行や出張の予定があり、体調管理や処方について相談したい場合は、診察時にいつでもお声がけください(自由診療となります)。