電子タバコはそれほど有害ではないかも?

2025年3月21日付 The Economist の記事「How harmful are electronic cigarettes?(電子タバコはどれほど有害か)」より、要約

■ 電子タバコ規制の広がり

使い捨て電子タバコ(「パフ」とも呼ばれる)は、ベルギーやフランスで禁止され、イギリス、スコットランド、ウェールズ、ニュージーランドでも禁止が予定されている。

**30カ国以上(ブラジル、インドなど)**では、すべての電子タバコ製品が禁止されている。

■ 健康リスク

EVALI(電子タバコ関連肺損傷)は、アメリカで2019年に注目され、2020年2月時点で入院2807例・死者68人が報告された。

主因はビタミンEアセテート(違法製品に添加されるオイル)とされ、規制により発症数は減少。

■ その他の有害成分

合法品にも**カフェインや農薬原料(例:トリブチルリンオキシド)**などの有害成分が含まれる可能性。

ホルムアルデヒド、鉛、クロムなども過去の調査で検出。

酸化ストレスによるDNA損傷や、マウス実験での発癌も報告。

■ 喫煙との比較と禁煙補助

電子タバコは紙巻きタバコよりは有害性が少ない:

発がん物質や毒性成分はあるが、量は少ない

タールや一酸化炭素は含まれない

禁煙補助として有効な可能性:

2019年の英国の研究では、電子タバコ使用群の18%が禁煙成功(従来法は10%)

■ 結論

電子タバコにもリスクはあるが、タバコよりは安全
禁煙支援ツールとしての一定の効果と価値も認められる


タバコをやめるのは麻薬をやめるのと同等に難しいと言われています。
ただ、電子タバコは紙タバコと吸いやすさが似ているので、禁煙もしやすくなるのでは?とあります。
禁煙が難しい方は、まずは電子タバコに変えてみてはいかかでしょうか?

これって信じて大丈夫?真実性の錯覚(illusory truth effect)とは?

The Importance of Repetition in the Workplace(職場における繰り返しの重要性)

(The Economist, March 13, 2025)

リーダーに必要なスキルとして、「繰り返し同じことを言い続ける能力」が挙げられ、これは、戦略の浸透、企業文化の強化、投資家やメディアへのメッセージ発信などに欠かせない・・・、
という内容なのですが、記事の途中で、

真実性の錯覚(illusory truth effect)

という言葉が出てきました。
何度も聞くと、たとえ根拠がなくても真実だと感じやすくなる、という意味です。
これについてもう少し調べてみました。

この効果は、1977年に心理学者のHasher, Goldstein,Toppinoによって初めて実証されました。研究では、参加者に一連の文を提示し、一部の文を繰り返し見せたところ、たとえその文が嘘であっても、繰り返し見た文をより「真実らしい」と評価する傾向が見られました。

メカニズムの一つとして、
処理流暢性(Processing Fluency)というのがあり、これは
人間の脳は情報を処理しやすいほど、それを正しいと判断しやすく、
繰り返し見聞きすることで情報の処理がスムーズになり、それが信憑性の証拠のように錯覚されます。

実生活での影響

1. フェイクニュースと誤情報

SNSやニュースサイトで同じ情報が何度も拡散されると、それが事実であるかのように感じやすくなります。デマ情報や陰謀論が広まりやすい原因の一つです。

2. 広告・マーケティング
企業は広告を繰り返し流すことで、商品やブランドの信頼性を高めます。
「〇〇は体に良い」「△△は効果がある」と何度も見聞きすると、実際にそう思い込んでしまいます。

3. 偏見やステレオタイプの形成
ある特定のグループに関する偏見やステレオタイプが繰り返し提示されると、それが事実であるかのように認識されやすくなります。

対策

・情報の出典を確認する。最初に聞いた情報源が信頼できるかチェック。情報源が不明か信頼できなければ信用しない。
・異なる視点の情報を意識的に取り入れる。
・繰り返し見た情報に対して「本当に正しいか?」と意識的に疑う。
・すぐ信用せずに最初から話半分で聞いてみる。

この効果は日常の意思決定や情報処理に大きく影響を与えるため、特に現代の情報過多の社会では注意が必要です。

マイスリーで認知症になる?

マイスリーで認知症になる?

最近、睡眠薬「マイスリー(一般名:ゾルピデム)」が認知症リスクを高めるのではないかという話題が取り上げられることがあります。その背景には、グリンパティック・システム(Glymphatic System)という脳の老廃物除去機構の存在が関係しています。

グリンパティック・システムとは?
グリンパティック・システムは、脳脊髄液(CSF)を使って老廃物を洗い流し、神経細胞の健康を維持する重要な役割を果たします。特に睡眠中に活発に働くことが分かっており、睡眠の質が低下するとこのシステムの機能も低下する可能性があります。

マイスリーで認知症リスクが高まる?

結論から言うと、「マイスリー(ゾルピデム)が認知症を引き起こす」という主張は、現時点では科学的に確立されていません。確かに、一部の研究ではゾルピデムがグリンパティック・システムの働きを低下させる可能性が指摘されていますが、これは動物実験の段階であり、人間における明確な証拠はありません。

むしろ、不眠そのものが認知症リスクを高めることが広く知られています。慢性的な不眠は、脳の老廃物の蓄積を促し、アルツハイマー病やその他の神経変性疾患のリスク要因とされています。そのため、「睡眠薬を飲むことで認知症のリスクが上がる」という単純な因果関係は成立しません。


不眠は認知症リスクを上げる
長期間の不眠は、以下のようなメカニズムで認知機能に悪影響を及ぼす可能性があります。
1. アミロイドβの蓄積
アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβは、睡眠中にグリンパティック・システムを通じて除去される。不眠が続くと、このプロセスがうまく機能せず、脳内に蓄積してしまう。

2. 神経細胞の修復機能の低下
睡眠中には記憶の整理や神経細胞の修復が行われる。
睡眠不足が続くと、認知機能の低下や記憶力の低下が進みやすくなる。

3. 慢性的なストレスと炎症
不眠はストレスホルモン(コルチゾール)の増加を引き起こし、慢性的な炎症を誘発する。
これが脳神経細胞にダメージを与え、長期的には認知機能低下のリスクを高める。


不眠よりは睡眠薬を飲んで眠る方が良い
不眠そのものが認知症リスクを上げる以上、「睡眠薬を使ってでも眠る方が良い」というのが現実的な考え方です。
「不眠で何日も苦しむ」よりは、適切な量を服用し、しっかりとした睡眠を取る方がメリットは大きいといえます。

眠れてきたら医師と相談しながら減薬を試みる
急にやめると反跳性不眠(リバウンド)を引き起こすことがあるため、少しずつ減薬する。

睡眠習慣の改善を並行して行う
規則正しい生活リズムを作る。
寝る前のカフェイン摂取を避ける。
スマホやPCの使用を控える。
その他:漢方併用も効果がある場合があります。

まとめ

・「マイスリーで認知症になる」というのはミスリード(科学的な証拠は不足)

・不眠そのものが認知症リスクを高めるため、睡眠の確保が最優先

・睡眠薬は適切に使えば、健康的な睡眠をサポートできる

・眠れてきたら、医師と相談しながら減薬を検討するのがベスト

参考
wikipedia Glymphatic_system
Norepinephrine-mediated slow vasomotion drives glymphatic clearance during sleep

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断続的な断食は効果がありますか?

患者さんに食欲があるかどうかは必ずお伺いするのですが、たまにファスティング(断食)をやってます、という方がいらっしゃいます。

たまたまこういう記事がありましたので、取り上げてみます。

断続的な断食は効果がありますか?
Does intermittent fasting work?(The economist)

断続的断食(Intermittent Fasting, IF)は、特定の時間枠内でのみ食事を摂るダイエッ​​ト方法であり、人気のある中の一つである「5:2ダイエット(5日間食べて、2日間断食)」があります。IFのメリットとして、食材の計量や大幅な食事制限が不要であり、継続しやすい点が挙げられます。

IFの効果としては、体重減少には有効であり、従来のカロリー制限と同程度の成果が期待できます。
健康へのメリットとして、老化を遅らせる、代謝の改善、がんリスクが低下するなどの動物実験で示唆されています。これは細胞の自己分解、再利用を促す「オートファジー」の活性化が関与すると考えられています。
ただし、人間における明確な証拠はなく、研究は進んでいるそうです。

また、極端なカロリー制限(40%削減)を伴う食事は、筋肉量の減少や免疫機能の低下といったデメリットがあります。

よって、無理しない程度の断食を行うのが一番良いのではと思われます。