美容整形を受ける人に多い「醜形恐怖症(身体醜形障害)」とは?
■ 美容医療の裏に潜む“こころ”の問題
「もっと鼻を高くしたい」「目元のバランスを整えたい」「肌をきれいに見せたい」――
こうした願いをかなえる美容整形・美容皮膚治療は、今や特別なものではなくなってきました。
一方で、「何度整形しても満足できない」
「他人には気づかれないような容姿の“欠点”がどうしても許せない」
――そんな訴えを持つ方も、精神科ではしばしば見受けられます。
これらの背景には、「醜形恐怖症」とも呼ばれる身体醜形障害(Body Dysmorphic Disorder: BDD)が潜んでいる可能性があります。
この記事では、精神科医の視点から、美容整形と醜形恐怖症の関係を解説します。
■ 身体醜形障害(BDD)とは?
身体醜形障害とは、実際には目立たない、あるいは存在しない容姿の欠点に強いこだわりを持ち、そのことによって日常生活に支障をきたす精神疾患です。
▶ 具体的な症状の例:
鏡の前で長時間過ごす
他人からどう見られているかが常に気になる
「整形すれば人生が変わる」と強く信じている
学校や職場に行けなくなるほどの苦痛を感じる
米国精神医学会の診断基準(DSM-5)にも明確に記載されており、うつ病や社交不安障害、強迫症状を併発することも少なくありません。
■ 美容整形を希望する人はBDDの割合が高い?
はい。複数の研究により、美容医療を受ける人の中にはBDDの有病率が高いことが示されています。
▶ 最新のメタ分析(2024年 Kaleenyら)では…
世界中の美容整形・再建外科患者17,000名以上を対象に調査
BDDの有病率は平均18.6%
一般人口における有病率は0.7〜2.4%程度であり、これは約10倍に相当します。
特に、
自分の外見に極端な不満を持つ人
他人に「大丈夫」と言われても納得できない人
同じ部位を繰り返し手術したいと訴える人
などは、BDDの可能性を慎重に評価する必要があります。
■ なぜ整形では心が満たされないのか?
身体醜形障害の方は、身体の外見に対する“認知のゆがみ”を持っています。
このため、外見がどれだけ改善されても脳が「改善された」と感じにくいのです。
美容整形や皮膚処置を受けても「まだ足りない」「他の欠点が気になる」と、次の施術に進もうとするループに陥ってしまうこともあります。
むしろ、整形後に「理想と違った」「こんな顔になりたかったわけじゃない」と落ち込み、抑うつ気分が悪化する例もあります。
美容整形を考えるとき、「本当に自分のための決断か?」「他人の評価に振り回されていないか?」を一度立ち止まって見つめ直すことは非常に大切です。
もし以下のような傾向があれば、精神科での相談を検討してみてください。
▶ チェックリスト
容姿のことで学校・仕事・人間関係に支障をきたしている
同じ部位が何年も気になっている
1日1時間以上、自分の容姿について考えてしまう
他人からは「気にしすぎ」と言われるが納得できない
整形後も満足できず、不安や怒りが続いている
■ 美容とメンタルは切り離せない
現代は「見た目の時代」とも言われるように、美容に対する関心が非常に高まっています。
それ自体は悪いことではありませんし、自分を大切にする選択の一つでもあります。
しかし、「美しさ=幸せ」ではないということを忘れないでください。
外見の悩みの裏にある“こころの声”に耳を傾けることで、より根本的な安心感と自己受容が得られるかもしれません。
美容の前に、まずは心のバランスを整えること。
精神科やカウンセリングも、あなたの「本当の自分らしさ」を取り戻す選択肢のひとつです。
当院では、美容に関連するこころの不調や身体醜形障害のご相談も受け付けています。
身体醜形障害の診断及び治療を受けた後、美容整形を受診しても遅くはありません。
余計なお金もかからないかもしれません。
「整形したいけど迷っている」「外見のことで苦しくなる」――
そんなお悩みを抱えている方は、ぜひ一度ご相談ください。
参考文献
Body Dysmorphic Disorder in Aesthetic and Reconstructive Plastic Surgery-A Systematic Review and Meta-Analysis
Joseph D Kaleeny 1, Jeffrey E Janis 1
Prevalence of Body Dysmorphic Disorder: A Systematic Review and Meta‐Analysis
Luis Ángel Pérez‐Buenfil, 1, Martha Alejandra Morales‐Sánchez 2,✉