【睡眠が脳を守る】デエビゴ(レムボレキサント)が認知症の原因「タウ」を抑える可能性ーでもマウスの場合ね

「睡眠と認知症」の関係についていますが、その関連を裏付ける非常に興味深い研究が、2025年に権威ある《Nature Neuroscience》誌に掲載されました。

Lemborexant ameliorates tau-mediated sleep loss and neurodegeneration in males in a mouse model of tauopathy

その研究では、睡眠薬「レムボレキサント(商品名:デエビゴ)」が、アルツハイマー病などの原因となる「タウタンパク質」の異常を抑える可能性があるという内容が報告されています。

タウタンパク質とは?

認知症、とくにアルツハイマー病や前頭側頭型認知症では、「タウ」と呼ばれるタンパク質が異常に蓄積し、神経細胞がダメージを受けていきます。これが記憶障害や人格変化といった症状を引き起こす原因の一つとされています。

この「タウ」の異常蓄積(タウオパチー)は、特定の脳部位に炎症や萎縮を引き起こし、不可逆的な神経変性へとつながります。

睡眠とタウの意外な関係

今回の研究では、「タウが脳にたまる原因の一つが“睡眠不足”にある」という仮説に注目し、ある治療薬の可能性を動物実験で検証しました。

その治療薬とは――「レムボレキサント(デエビゴ)」

これは、不眠症の治療に用いられるデュアルオレキシン受容体拮抗薬(dual orexin receptor antagonist:DORA)で、「自然に近い眠気を誘導する」という特徴を持っています。

レムボレキサントがもたらした効果

研究チームは、アルツハイマー病のモデルマウス(P301S/E4マウス)に対して、レムボレキサントを投与しました。その結果:

  • 睡眠パターンの改善

  • タウタンパク質の異常リン酸化の抑制

  • 脳の萎縮の予防

  • 炎症(ミクログリア活性)の抑制

といった効果が確認されました。

特筆すべきは、同じく睡眠を促す薬である「ゾルピデム(マイスリー)」では、これらの効果は得られなかったという点です。

つまり、「眠れれば何でもいい」わけではなく、オレキシン経路を遮断するという仕組みが、タウの広がりを抑えるカギである可能性が示されたのです。

オレキシンとは?

オレキシンとは、脳の覚醒を司る神経伝達物質で、「起き続ける」ためのエネルギーを促す役割を担っています。

現代社会では、スマホやストレスなどの影響でこのオレキシン系が過剰に働きやすくなっており、「自然な眠り」を妨げている可能性も指摘されています。

そのため、オレキシンを抑える薬剤で睡眠の質を整えることが、認知症予防にもつながるというのが、今回の研究のメッセージです。

ただし、この効果は「オスのマウス」でのみ確認され、メスのマウスでは明確な結果が得られなかったとのこと。

これは性ホルモンの違いや脳の免疫応答に関わる要因が関係している可能性があり、今後の課題として挙げられています。

睡眠薬=一時しのぎの対症療法と思われがちですが、今回のように「根本的な神経変性の抑制」にまでつながる可能性があるかもしれないというのは画期的です。

特に、軽度認知障害(MCI)や睡眠障害を抱える中高年の方にとって、日々の睡眠の質が将来の認知症リスクに直結している可能性を示していると言えるでしょう。

「まだ症状はないけど最近眠りが浅い」「夜中に何度も目が覚める」…そんな方こそ、一度ご相談ください。

眠りから脳を守りましょう。

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