【精神科医が解説】マレーシアで適応障害になり「1ヶ月休養」と言われたら?――Medical LeaveとHospitalisation Leaveの違い

マレーシアでは1ヶ月の休職は入院しないといけない?

こんにちは。精神科医の吉本です。

当院には、海外で勤務されている日本人の方からメンタルヘルスに関するご相談が多く寄せられます。その中でも、オンライン診療において、マレーシアで働く方から特に頻繁にいただくのが、以下のようなご質問です。

「適応障害と診断され、1ヶ月程度仕事を休むように言われました。マレーシアではMedical Leave(病気休暇)は14日までと聞きましたが、それ以上休む場合は入院が必要なのでしょうか?」

日本とは労働法や休暇制度の仕組みが異なるため、不安になられる方も少なくありません。

今回は、マレーシアの病気休暇制度の仕組みと、適応障害で休職・休養が必要になった際の注意点について、精神科医の視点から分かりやすく解説します。

1. マレーシアのMedical Leaveは一律14日ではありません

まず知っておいていただきたいのは、「有給の病気休暇=年間14日」とは限らないということです。

マレーシア半島部およびラブアンでは、Employment Act 1955(雇用法)により、通常の有給病気休暇(Paid Sick Leave)の日数は勤続年数に応じて以下のように定められています。

  • 勤続2年未満:年間14日

  • 勤続2年以上5年未満:年間18日

  • 勤続5年以上:年間22日

さらにこれとは別に、Hospitalisation Leave(入院病気休暇)が年間60日認められています。

2023年1月1日の法改正(Employment Amendment Act 2022)により、通常のSick LeaveとHospitalisation Leaveは完全な別枠となりました。そのため、たとえば勤続2年未満の方であれば、年間で最大74日(14日+60日)の有給病気休暇の枠があることになります。

2. 「1ヶ月休む=自動的にHospitalisation Leave」になる?

ここで注意が必要なのが、「14日を超えて休むからといって、自動的にHospitalisation Leaveが適用されるわけではない」という点です。

Hospitalisation Leaveが適用されるための要件は、「休む期間の長さ」ではなく、医師が医学的に「hospitalization is necessary(入院が必要な状態である)」と判断するかどうかです。

したがって、

  • 「適応障害なので、1ヶ月自宅で休養した方がよい」

という診断だけでは、当然にHospitalisation Leaveとして扱われるわけではありません。

3. 実際に入院していなくても「Hospitalisation Leave」になる場合がある

一方で、マレーシアの制度には重要な規定があります。それは、「必ずしも実際に病院へ入院していなくてもよい」という点です(みなし入院:Deemed Hospitalisation)。

Employment Act 1955 Section 60Fでは、「医師が入院を必要とするほどの病状であると認定したものの、何らかの理由で実際には入院しなかった場合」についても、制度上は入院したものとして扱うことが規定されています。

そのため、精神疾患においても、

  • 「抑うつ、不安、不眠、食欲低下、日常生活能力の低下などが著しく、本来であれば入院治療を検討するレベルの重症度である。しかし、家族のサポートが得られるため自宅療養とする」

といった医学的状況であれば、実際に精神科病院へ入院していなくても、Hospitalisation Leaveの対象となり得るのです。

4. 適応障害で休養が必要な場合の医学的アプローチ

適応障害は、職場のストレスから離れることで症状が改善しやすく、数週間〜1ヶ月程度の休職・休養が必要となるケースが少なくありません。

しかし、

  1. 「1ヶ月の休養が必要である」(治療に必要な期間)

  2. 「入院が必要なほど重症である」(病状の重症度)

この2つは、医学的には異なる評価です。

「会社のSick Leave(14日等)が尽きてしまうから」という理由だけで、安易に「入院が必要な重症状態」として診断書を作成することは適切ではありません。診察を通じて病状を慎重に評価したうえで、正しい診断書・記載内容を整理する必要があります。

5. 海外勤務者が休職手続きをする際の大切なポイント

マレーシアでメンタルヘルスの不調を感じた際、また日本の精神科を受診して診断書を取得・提出する際には、以下の点を確認しておくことが非常に重要です。

① 勤務先の「Panel Clinic(指定クリニック)」制度の有無を確認する

マレーシアの多くの企業では、会社が契約する指定クリニック(Panel Clinic)の医師(GP: 一般医)による診断書(MC)を求める就業規則があります。専門医や非Panelのクリニックを受診する際、事前に会社の承認やPanel GPからの紹介状が必要となるケースがあるため、まずは人事(HR)に手続きを確認しましょう。

② 日本で発行された「英文診断書」の扱いを確認する

現地で日本の精神科のオンライン診療を受けたり、一時帰国時に日本の精神科で英文診断書を発行してもらったりすることもあるかと思います。

マレーシアの雇用法上、MCは現地の登録医師(Registered Medical Practitioner)による発行が原則です。日本の英文診断書をそのまま会社が受け入れてくれるか、あるいは現地の提携医や産業医による追認(Endorsement)が必要になるかは会社規定によって異なります。

③ 勤務地域や会社独自の制度を確認する

マレーシア半島部・ラブアンと、サバ州(Sabah)・サラワク州(Sarawak)では適用される労働法体系が異なります。また、雇用法の最低基準を超えて、独自の休職制度や医療保険制度を設けている会社も多いため、HRへの事前の相談が不可欠です。

まとめ:一人で悩まずご相談ください

適応障害は「軽い病気」と思われがちですが、我慢して仕事を続けることで重症化してしまうこともあります。症状が重い場合には、適切な期間、しっかりと仕事から離れて治療に専念することが何より大切です。

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海外勤務者の休職にあたっては、

  • 病名

  • 現在の症状・就労能力

  • 必要な療養期間

  • 現地の法制度・会社の就業規則

をそれぞれ整理したうえで、適切に対応していく必要があります。

当院では、海外勤務中・駐在中の日本人の方に対してもオンライン診療を行なっております。病状をしっかりとお伺いしたうえで、必要に応じて英文診断書の発行や、現地会社への提出に向けたご相談も受けております。

「現地の制度と自分の病状でどうすればいいか分からない」「まずは話を聞いてほしい」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。

今回の解説およびブログ記事の執筆にあたっては、マレーシアの雇用法(Employment Act 1955)の一次情報および現地の労務専門機関・法律事務所による解説資料を参考にしています。

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